ローマ帝国軍事用語集

1) レギオ (Legio)

ローマの正規部隊。
ローマ市民権を持つ者だけで構成された。
時代によっても異なるが、帝政ローマ時代では1つの軍団は10のコホルス(大隊)から構成され、騎兵200強を含めたおよそ5000から6000人の軍団兵がいた。
通常、1コホルス(Cohors)は3マニプルス(歩兵中隊)、1マニプルス(Manipulus)は2ケントゥリア(百人隊)から構成されていたので、1コホルスはすなわち6ケントゥリア(Centuria)から構成されていた。なお各レギオの第1コホルスは名誉ある部隊とされ、通常の2倍の兵力で構成された。 1コホルスの人員は時代によって異なり、マリウスの軍制改革以後では定員600人ほどという計算になるが、実際には定員割れを起こしていることが多かったとされる。のちにアウグストゥスの治世では450人となった。
コホルスの指揮は上位のケントゥリオが担い、下位のケントゥリオに命令を下した。またコホルスの中でも第1コホルスの指揮は「プリムス・ピルス」と呼ばれる筆頭ケントゥリオが執った。

BC4世紀の初めころから日給とが支払われるようになった。
歩兵 … 重装・軽装関係なく4アッシス
百人隊長 … 8アッシス
騎兵 … 12アッシス
また食糧も支給された。
ローマ市民の歩兵 … 6モディウスの小麦
ローマ市民の騎兵 … 18モディウスの小麦 + 馬用の63モディウスの大麦
同盟国の歩兵 … 6モディウスの小麦
同盟国の騎兵 … 16モディウスの小麦 + 馬用の45モディウスの大麦

 

レギオの組織構成

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https://twitter.com/DigitalMapsAW/status/1148958744652500992

 

レガトゥス・レギオニス (Legatus Legionis)

レギオの司令官のこと。マリウスの軍制改革によって、トリブヌス・ミリトゥムの上に設けられた職である。主に元老院議員を3年以上勤めた30歳前後の人物で占められる。この官職は元老院か皇帝の任命によって決められた。任期は3、4年からさらに長期間に及んだ。1個~数個軍団の指揮を任された。軍団長の下には、各軍団ごとに6名のトリブヌス・ミリトゥムが選出されて、2名ずつ3交代で軍団の運営を司った。通常は属州統治は行政面で属州総督、安全保障面でレガトゥスと業務を分けるが、場合によってはレガトゥスが軍事・行政両面に携わることもあった。

 

トリブヌス・ミリトゥム (Tribunus Militum)

レガトゥスを補佐する幕僚。1個軍団に6名配置された。その内5人は参謀将校の任務に就き、残る1人は元老院からのお目付け役であった。軍団の運営を統括し、大隊長級の指揮権を持っていた。

 

トリブヌス・ラティクラウィウス(Tribunus Laticlavius)

最高位のトリブヌス(指揮官)。トリブヌス・ミリトゥムと異なり、若く経験に乏しい者が就任するので、実際の戦闘の指揮を執ることは稀ではあるが、レガトゥスが死亡するなどの非常時に指揮官としての役割を果たした。

 

トリブヌス・アングスティクラウィウス(Tribunus Angusticlavius)

各レギオに5人存在する。指揮官と軍団兵の中間管理を行う公職。主にエクィテス階級の者が務めた。また2つのコホルスを率いる連隊長としてレギオからの一部兵力を分遣する際の業務も担った。

 

プラエフェクトゥス・カストロルム(Praefectus Castrorum)

野営業務に携わる上級士官。引退せず軍に残ったプリムス・ピルスのために用意された。レギオ内での階級では前述の「トリブヌス・ラティクラウィウス」、「トリブヌス・アングスティクラウィウス」より低いものの、戦闘時には事実上レギオー副指揮官としての役割を担った。通常、ノンキャリアの軍団兵が成り得る最高位の階級。

 

アクィリフェル (Aquilifer)

ローマ軍団の標準的な紋章である「アクィラ」を守る職務を担った。

 

プリムス・ピルス(Primus Pilus)

名誉とされる第1コホルスを指揮する。数ある百人隊長の中でも最も高位な役職。この階級の者が退役する際にはエクィテス(騎士階級)となり、上流階級の一員として迎え入れられた。

 

ピルス・プリオル(Pilus Prior)

各コホルスの指揮を任され、各配下の百人隊長に命令を下した。

 

プリミ・オルディネス(Primi Ordines)

ケントゥリオの中でも高位の存在でベテランの軍団兵が務めた。「プリムス・ピルス」、「ピルス・プリオル」に次ぐ高位の士官。

 

ケントゥリオ(Centurio)

ケントゥリアを指揮する百人隊長。レギオの要として戦術上非常に重要な役割を担った。また戦闘の指揮だけでなく、非戦闘時の軍団兵の軍隊生活の統括も行うなど業務範囲は広かった。通常は経験を積むことによってケントゥリオの格は上がっていったが、皇帝または上級士官によって取り立てられることもあった。

 

オプティオOptio

ケントゥリオを補佐した。「ハスティレー」と呼ばれる棒を持ち、隊列最後尾が乱れないように監督した。

 

テッセラリウス(Tesserarius)

オプティオの補佐を行った。主に上級士官と下士官の連絡を担当した。

 

シグニフェル (Signifer)

各コホルスでローマ軍の軍旗を守る職務を担った。

 

コルヌセム (Cornucem)

下級士官。

 

2) アウクシリア (Auxilia)

レギオを支援する部隊。
ローマ支配下においてローマ市民権を持たない者、あるいは戦地周辺で徴集された志願兵からなる部隊とローマの同盟国・同盟部族などが供用する部隊の2つがあった。

 

アウクシリアの組織構成

兵種は、レギオがほぼ重装歩兵であるのに対して、アウクシリアは重装歩兵に加えて以下のものも構成された。
・騎兵隊 (Equites) : アウクシリアの主力で重装。偵察や前哨戦、側面攻撃、追撃を担当。
・軽装歩兵 (Velites) : 軍団兵の前に展開する。
・投石兵 (Funditores) : 投石器で石を投げる。
・弓兵 (Sagittarii) : 弓矢を射る。主にシリア人で編成された。

騎兵隊の編成は、次のように構成されていた。
・騎兵中隊 (Ala) 1個 = 10個騎兵小隊 (約300騎)
・騎兵小隊 (Turma) 1個 = 3個騎兵分隊 (約30騎)
・騎兵分隊 (Decurio) = 10騎
同盟部族から供用された騎兵隊が独立したアウクシリア部隊を持つのに対して、異民族の志願兵などはレギオに付属したと考えられている。

 

3) リメス (Limes)

ローマ帝国の防砦システムで、ローマ領の境界線を示す。
特に柵、土塁、砦などで補強された長城をさす。長城に沿って物見櫓や城砦が築かれた。